御機嫌よう


胃の中には何も見えない
そんな君はさっき
胃液すらも出し尽くしたところ


「欲しくないわ
 要らないの」
私は羽になりたい


この場所に羊水は無く
恐ろしく危険な此処で
僕等はあまりに無防備だ

さらされた体が
包まれた内臓の
その痛みと

道端でうずくまる
君の震えには触れないで
帰るんだよ
住処なんて何処にも無いけど

吐いた胃液に 君 溶けているよ
君 溶けているよ


吹き付ける風の
冷たさも忘れたいの
知ってしまった事を
無かった事にして
「私は
 羽になりたい」


僕の喉仏を刺激しながら
君は僕の中に入っていくね
吐き尽くした君には
内臓すらも無くて
咀嚼しきれなかった君の骨が
僕の粘膜を傷つけてゆくよ

ああ 君は
あの空の青さも
芝生の痛みも
密やかなお茶会も
静かなキスも
全部投げ捨ててしまうんだね
僅かな皮膚と
立派な骨だけ残して

ねえ 君
空は飛べたかい
誰かは君を
連れ去らえたのかい