触れれば壊れそうに華奢な白だ、君はコロナ、誰かに隠れた時にだけ輝く美しい光、あぁ見えるのに、見えない。






Corona






 何かが壊れて僕から流れていく、激情というには少し生ぬるい気がして、頭がショートする、難しい話は、嫌いだ。
 分かっているのに分かっていないふりをしているのか、ただ単純に愚鈍か、いや、一番愚かなのはこの僕、分かっているけれども。窓際は夕日を受けて美しく、君の宇宙よりも黒い髪が柔らかく光る。
 例えば今、ここにいることだとか、何で僕の横に、だとか、理由を問うては、駄目かい。聞けば君は逃げ出してしまう、ような気がしている。
 ショートしている。脳みそが。考える事を放棄しているわけではない。考えすぎてしまっている。考えすぎてしまって、結局結論にたどりつけないのだ。何で何でのクエスチョンマークばかり浮遊、君の横顔を見る、事が出来ない。スラリと尖った鼻だ(確か)、幅の広い二重だ(確か)、額の丸みはまろやかで、上唇はツンと上を向いている(そう、確か)。
 良く見れば細かく美しい造形をしていた、筈だ。夕日は赤い、君を舐めまわすように落ちていく。静かに、静かに。
「こうやって一日が終わって、」
 少し日が傾いて、逆光気味になる。君の周りだけがあわくぼやけて光る、赤い、赤いのに、白い、黒い。ありきたりな言葉ではもったいない気がしている。けれど最上級を探せないでいる。奇をてらった言葉じゃ白々しくて、ありふれた賛美ならば伝わらなくて。けれど、あぁけれど。何よりも、何よりも僕の心を震わせるのだ。
「明日が来て、」
 触れれるだろうか。この距離ならば。触れてもいいのだろうか。この距離なのだから。熱い息を感じてしまえそうだよ、手を伸ばせば届くんだもの。けれど君は赤く黒く白い、だから触れれば火傷しそうさ。宇宙を感じるぐらい深く、僕のどこか中がさざめく、落ち着かないざわついた薄汚い劣情。
「無為な時を過ごすのね」
 今この瞬間に意味を見つけるなら、君はコロナ、夕日が落ちて直接見えない時が一番美しい。僕は愚か、君を想うているのに何も出来ない。熱い息を感じてしまえそうだよ、激情というには生ぬるいクソみたいな馬鹿が頭の回転をやめさせる、ただ明確な目標もなく、君、君、そう目の前の貴女、愛しいだとか感情も伴わず、ただ貴女、貴女だけが欲しいです。
「あの、」
 僕の咽にひっついて言葉は出ただろうか。君は僕を見ただろうか。君はどこかどうでもよさそうだけど、美しい造形をしていた(筈だ)。
「あのさあ」
 ああ告げれば君は逃げるだろう。ただ何も考えられない。触れたい訳じゃない。愛したい訳じゃない。ただ、ください。欲しいんだ、貴女、貴女、そう君です。美しいじゃ物足りない、愛してるじゃどっかズレてる、獣染みた愚鈍さで、何も考えたくない、難しい話は嫌いだ、貴女、貴女、そう君が、コロナ、僕にしか見えない光ならば、永遠に僕の横で、僕の物になって、そしてずっと何も考えられないぐらいの熱を吹きかけてよ、ねえってば。