その不器用な指で折る。馬鹿みたいな丁寧な仕草。
 「翔(しょう)、そうじゃないわ」
 茜さす教室の。西日があたって、青い折り紙は良く分からない色になった。
 彼のごつごつとした手は、何度か宙をさまよった後、正しい答えを導き出した。私はそれを見て満足する。自分の作業に戻り、一つ折り終える。翔はまだ一つ目の半分までしかいっていない。丁寧に丁寧に、まるで傷つけるのを厭うかのように折る。その折り目に、何を込めるのだろう。
 私は二つ目に取り掛かる。翔に比べて、華奢な指がやけに目についた。
 その手で殺した。たくさんのものを。
「意外と覚えてるもんだな」
 張りのある翔の声が、独り言のように紡がれた。私は横目で完成品を見る。武骨な彼とは裏腹に、その作品はとても繊細なものに仕上がっていた。
「薔薇。完成」
「なかなかね」
「だろ?」
 彼は満足げな口調で言うと、それを夕陽に掲げた。あたしはそっとその薔薇に触れる。
「何で青で折ろうと思ったの」
「青い薔薇は無いんだろ?」
 だから、と翔は言葉を続けて目を細めた。光が眩しいのだろうか。光を背負う私を、翔はしっかり見ることが出来ているだろうか。
 翔。もう青い薔薇はあるわ。無理やりねじ曲げて作ったものが、もうあるわ。
 あなたの武骨な指に、その繊細さが似合わない。細やかな折り目、揃えられた端。
「これ、ね」
「あ?」
「薔薇って言って教えたけど、本当は椿なの」
 声は普通だった。薔薇に触れた指は、震えていたけど。
 翔は真っ黒な瞳で私を見た。その瞳孔には私が映っている。あの時もそうだった。あの時は。
「それでも俺には、薔薇、だ」
 まだあの時の記憶を覚えている。密やかな午後、二人で無駄に夢中になった折り紙。まだ覚えてる、まだ感じれる。それだけが妙にぴかぴかしたまま。
 まだ生きてる。あの時の匂い、胸の鼓動、走り出しそうな、衝動。
「うん」
 椿だろうが薔薇だろうが、牡丹だろうが百合だろうが石南花だろうが、何だって良い、どうだって良い。
 ただ、苦しい、殺しそびれて生き長らえた気持ちが暴れて、ただ苦しいわ。



美化びかビカさ



れて記憶憶々


飛ぶトぶ


トん、で