※同性愛的表現、性的表現があります。苦手な方はご注意下さい。


 キスキスタッチタッチセックスセックスコールコール・マイネーム






ラ リ る く ら い
愛 し て る .







 わざとらしく絡めた舌の音。うざったくくすぐるみたいな声で笑って、駄目、とそっと押された胸。
「馬鹿。まだするの?」
 何の必要性か長く伸ばした髪。まるでコイツの未練みたイ、こっ酷く振った俺がまだ好きだなんて、また騙されるだなんて。
「良いでショ」
 甘えて耳元で囁けば、もう、だなんて、何それ、そこまで恥らったりする女じゃねーくせにクソアマめ、媚びるな、その目を止めろ。何て、思っても、表面には出さない俺の超素敵顔面筋肉。あぁ、だから、あのヒトも俺の真意を見抜けなかったのネ(寂しい、だなんて)。
 ぐしゃぐしゃのシート、同じくらい乱れた下着、シャツとズボンはもう区別がつかない。液もだらだら。ドレがドレだなんてもう分かんなくなっちゃってて、多分この中に、この女の口紅だとかファンデーションだとかも一緒に溶けてて、何かもう酷い事になっちゃって。
 それでも女は気高いなぁ。まだ気取れるの? こんな裸の二人なのに。
「甘えん坊なんだから…」
 笑いながら俺は思う、これは何のオキテなんだろー、って。
 男と女が繋がる場合は、こういう前座が必要なのかな、そうだったっけな、もう、大分昔の事だから、分かんなくなってきてる。
 少なくとも、あのヒトと俺の場合は、こんなの、必要無いの。いつでも俺がヤりたい時にヤるの。そんなの、常にだけど!(アナタを前にしては俺はいつもボッキしてしまう)
 にっこりと笑って、キス。頭の中で目の前のこのアマをあのヒトに置き換える。そしてようやっと勃つ俺のイチモツ。するりと躰に触れて、気持ち悪いやわらかさを我慢して、頭の中で全部あのヒトに置き換えて置き換えて置き換えて。
 何だろう、これは。もう俺はあのヒト無しでは生きていけないのは確定してしまってる。もう、あのヒト以外抱け無いから。あのヒトを考えないと勃たないから。
 幸せじゃないなぁ。いや、凄く片思いだなぁ。
 そして俺は酷い奴だなぁ。さいあく。
「でも、だめ」
 凄くもったいぶったくせに結局はソレみたいで、女はざーとらしく俺の唇を押さえて離した。
「約束があるの」
「俺より大切?」
「ごめんね、仕事だから…」
 何て未練そうであせった顔なんだろう。そんな顔しなくたってすぐにおめーなんて捨ててやるよ。この部屋から出た、その瞬間に。でもそんな素振りすら見せないで、聞き分けの良い子供なんか演じちゃって、すねたふりをしながら分かったって言った。
「うん、じゃあね」
 俺がそう言ってノロノロとした瞬間、女は凄く粘っこく俺から離れた。でも、服を着るのはさっさとしていて、なんだかなぁ、って思う。アリガト、ってあんまり思ってない感謝を呟けば、女は凄く俺を愛しそうな顔で見つめて、良いのよ、って言った。
「また呼んで。また来るから」
「うン」
 どーせいつか勝手に来るんだろーなー、俺があんまりにも呼ばないから、なんてぼんやりと思ってる内にキスされた。口紅が粘っこくて気持ち悪かった。
「愛してるわ」
「…ん」
 部屋、片付けなさいよ、と笑って、高速で女は出て行く。最後にちらっと見たら、もうヤる前の格好に戻っていて。
 いつも思うけど、女って凄い切り替えしの速さだよね。男はいつでもダラダラでグダグダ。液も何だか収まりがつかないの。
 ぱたん、と閉じられたドアの音で、漸くこのマンションの一室が俺一人になった。でも部屋はクッサイクッサイで、何か人間の匂いしかしなかった。片付ける気にもならなかた。だってあのアマ以外、人なんて暫く来ない。
 全身裸はあんまりにもだらしなくて、取りあえずズボンだけ履いた。パンツは履かなかった。何か若干イチモツが勃っていてウザかったから一人でヌいた。寂しいなんて思わなかった。だって脳内にはあのヒトが居るんだもん。
 尽きるまでやってみたら、頭がくらくらしたから洗面所に行った。立ち上がって歩いていたら、本当に目の前がゆがんで、ヤバイ、と思えばもう遅かった。思わず屈み込んで胃の中のものを全部吐いた。涙もゲロも一緒に出てきて、少し、ほんの少しだけ、びっくりした。
 ぼんやりと吐いたモノを見つめる。洗面所にたまってキタネェキタネェ。これが俺から出たモノなのか。あのヒトを愛しすぎた結果なのかー。
 結局は、精液もゲロも一緒だよね。こうなれば。
 だって俺は、もう、あのヒトが好きで好きでたまんなくなってる。見ればヤりたくなってる。っていうか四六時中繋がっていたいの。でもそれを実行しちゃえば凄く嫌がられるし怒られるからできなくて、それの発散にそこら中利用なんかしちゃってあの女もそのうちのひとつで。
 最低な人間だ。でもそんな人間にアナタがしたのよー。
 君の精液が飲みたい。ていうか、あのヒトも、俺を思って吐かねーかなぁ。そしたら俺はすぐにでもその現場にかけつけて、出たゲロ全部飲んでやるのに。だってそんなもの、最高じゃないか。俺を思ったアイのカタマリじゃねーか。そんなの最強だ。だから、吐けば良いのに。いつでも飲んであげるのに。
 だから、あのヒトもこのゲロ、飲まねーかなぁ。美味しい、ってさっきの女が飲んだ俺の精液みたく飲まねーかなぁ。もうそんな現場見た時点でアウト、精液だけじゃなくてゲロだけじゃなくて全身の体液出ちゃう。
 好きだー。叫びたい。この気持ちいっぱい叫びたい。でも叫んだら色んな人に怒られるからやらない。そこまでの理性はまだある。
 会いたい。何で一人で仕事なんかいれちゃったのー。二人でずっと過ごしたかったのー。俺の折角のオフなのー。
 あぁアナタが好きだ好きだ好きだ。後何百回言ったらこの気持ちはマシになるだろう。抑える事が出来るんだろう。ほんの少し掠れるんだろう。そしたら俺ももう少し真人間になれるのに。でも、何回言ってもいつまででも言い続けれる自信があるの、酷い事に。
 込み上げて我慢出来なくなって、もっかい吐いた。胃液で喉を焦がしながら、頭の中にあのヒトがチラついた。もうそれは酷い愛しさで、酷いかわいさで、本当、好き。
 世界を敵に廻してでもあのヒトを愛してる。こんな狂気染みた愛しか渡せないけど、ここまで愛してしまってる。好きなんです、もう、まともじゃいられないくらいに。アナタのゲロを、飲みたい、アナタの愛を。そんな事無理だなんて分かっている。でも欲しいんだ。俺がアナタを思っているのと同じぐらいアナタも俺を愛して欲しいんだ(でも、そうなったら、二人でぜんぶ、壊しちゃうね)。
 何でも良いので、ください。飢えてるの。もうだって、20時間もアナタに会ってないから! 最後に会ったのは昨日の夜中。駄々を捏ねる俺に意地を張るアナタがブチギレて俺も泣きながら逆ギレて結局無理やりしちゃった昨日の夜中。そしてその時を思い出してまた渇望する俺。
 今だってその時だって俺からはアナタへの愛しか出ない。どんな液体も全部アナタへの愛だ。
 時計を見る。また一分増える。またアナタと会っていない時間が増える。刻一刻と地球は無慈悲。
 もう何もかもが爆発しそうで、何か本気で全身の体液出そうで、あーとかうーとか叫んで、死にたくなって、どうしようもなくアナタの声を聞きたくて、震える手で携帯をとった。仕事中だったら、とか考えたけど、どうでもよくて、ままならない指で必死にアナタのアドレスをさぐる。
 とたん、画面には、アナタの名前が。
「っ、はい!!」
「…なんでそんな元気なん」
「今ね、今、今ね、携帯を、手に取った直後だったんだよ」
「ん?」
「電話しよー、って、思った時だったんだよ」
「おー、ミラクルー」
「ディステニーじゃない?」
「そっちかな? はは」
「はは」
 今までの激情がすっと消えていくみたいに、どんどん俺の鼓動が収まる。いつのまにか手の振るえも止まっちゃってて、本当に、アナタって人は俺にとっての精神安定剤だ。それでも次は涙が止まらない。あふれ出るいとしさを抑えきれない。
 たぶん、無理なんだ。何回好きって言ったって、本当、この気持ちがマシになる事なんて無くって、本当、本当に、依存なんかじゃない、すべてなんだ。
「俺が仕事中だったらどうするつもりだったの」
「もしそーだったら、怒った?」
「大丈夫、サイレントマナーだから、気づかない方向」
「あー、そっちの方向かー」
「こっちの方向ですよー」
「そしたら、俺、死んでたねー」
「は?」
「ははは」
「何、どしたの。つーか何してたの」
「今ね、ゲロ吐いてたよ」
「マジで?」
「嘘だよ」
「酔ってる?」
「はははは」
「ばっか、酔ってる!」
「あははは」
 酔ってるとしたらーアナタにー、なんて、ね! かわいぶったりしてね!
 でもそれは本当の話で、そうだね、ずっとだ。っていうか永遠だ、永遠。
「ねぇ、どれが何が嘘だと思う?」
「『嘘』って言ったのが嘘だろ」
「何で?」
「ん?」
 ふ、って息が吐かれた。きっと笑ったんだ。すっごい得意そうな顔で(見えなくてもわかる。電話越しのアナタがわかる)。
「ディステニーだから」
 何。もう一回吐かせたいのかしら。
「…ヤベェ」
「あ? 何が」
「…ねぇ」
「うん」
「好きだよ」
「知ってる」
「好きー、好き好き好き好き好き好き好き好き」
「うっせー」
「ねーねー」
「次は何だ」
「…愛して、る」
「…」
 アナタが居ないと生きていけない程に、アナタの声だけで俺の涙腺が崩壊するほどに、っていうか、言葉にできないくらいに。
 細胞のひとつひとつが、きっとアナタで生きているのよ。そしてアナタで狂う。でも、それでも良いでしょ? 幸せでしょ? っていうか俺幸せだし。アナタが幸せかどうかは、あいにく、確認できてないんだけど。
 その時、ぶつりと電話が途切れた。何か気に触ったのかと思ったけど、良い。帰ってくるみたいだから。家に入ってきたらね、まずキスをするよ。それから、それからねー、嫌がっても確実に俺のよっきゅーふまんを解消してやんだぜ! 埋められなかった20時間を埋めるために。アナタが俺のゲロを飲みたくなるまで、アナタが俺と同じくらい飢える前に、アナタが俺を思ってゲロを吐くまで!
 だってもう餓死してしまう。アナタが居ないってそれだけで、俺の生命は絶えてしまう。だから、早く! 俺がアナタを思って死ぬ前に。
 真っ黒になった携帯のディスプレイを眺めていたら、扉がキィと開く音がした。ご主人様待ってた犬みたくがばってそっち見たら、月夜を背負ってあのヒトが立っているから、いつもみたいにへらって笑ってあまりのカッコカワイサで立っているから、俺は思わず絶叫を越えて絶句して、アナタは切れた携帯を掲げてさらに笑って、
「俺も、愛して、るー」
 なんて軽く照れてはにかむから、もう、アウト、崩壊、ただアナタへの愛で、俺は壊れそうになって、気づけば、キスより先に泣きながらアナタを抱きしめてた。手放す光景なんて一生想像出来ないな、なんて思いながら(好きだ)。