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 お前が触れた物全てが愛おしい。

 感情は論理を超えて唯只管愚直だ。世界を構成する術を知らないまま、僕らはキスをするだろう。粘膜の感触だけがリアルならばそれはそれで終了してしまうような、あぁそうだった、神はこれを罪と呼んだ。ふくよかな女性の目前で大蛇が赤い舌をちらつかせてその蟲惑を唯ひけらかして、林檎がどれだけ甘いかを説いて、おいでおいでと誘って、そして世界は赤く淫らに染まっていった、の?
 小指の付け根が痛い。赤い糸なんてきっとどこにも無いのに、その噂だけはまことしやかだ。君に歌、を、歌を、歌を。この赤い糸の赤さに関して、僕は説明できる術を知らない。だからといって世界が壊れる訳じゃないんだ、そうさ、明日、明日はきっと今日と同じように、けれど少しだけ厚みを変えて動くだろう。だから僕らはキスをするだろう。それ以上踏み込めない奥深くへ、お互い何も知らないフリなんかしてさ。

 馬鹿じゃないんだ。唯愚かだった。

 罪は甘くなくて苦いだけで、何も官能的ですら無い。泥にまみれるよりもリアルなのは、犯した罪が只管に涙を流すからだ。神は生きている事を罪だとは言わなかった、愛し合うことを罪だとは言っていたけど。
 お前が生きているかどうかなんて僕には知る術も無いし、一生そのままなんだろう。唯覚えているのはその頚動脈の脈動だ。うねる様な、そう、強かった。それは生命だった。お前の生きている証だったたった一度でも愛せてよかっただなんて、嘘、嘘だよ。本当は一生お前を信じていたい。

 善がったのは何にだ。欲しがったのは真か、濡れたのは嘘か。

 小指の付け根ばかりが痛い。もうすぐ此処に春が来るだろう。だから何だと言うのだろう。だからお前、キスをしよう。僕らは世界を構成する術も赤い糸の赤さに関して説明できる術もお前が生きているかどうかを知る術だって知らないんだ。何も知らないんだ。無知は罪だろうか。利口なのは罪だろうか、世界はどうすれば僕らを受け入れてくれるだろうか。
 僕は大蛇の美しさを、そればかりに枯渇したのかもしれない。誰かを殺せないこの世の中で、お前の、そうだよお前の粘膜の感触だけが、リアルだったんだよ。