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心中。






 唯、夢が在るのだ。
「死なない?」
「良いねぇ」
 一人では叶えられないなんて言って貴方を犠牲にしたい。だから何十回も繰り返された会話を飽きる事無く続ける。死なない? 良いねぇ。死なない? 良いねぇ。死なない? 良いねぇ。死なない?… 狭いベッドの上で、夜が明けるまで、繰り返す、壊れたラジオみたいに。答えなんか出ない。最初から持っていない。
 本当は、貴方は知っている。私に死ぬ勇気なんて無い事を。だから貴方は笑う。しかし、貴方は知っている、私に殺される勇気が在る事を。貴方の為ならどんな泥水だって啜ると言う事を。砕かれた骨が軋もうと、私は盲目のままだ。
 貴方は到達する瞬間、私の首を締める。喉が潰れて私は呼吸を失う。疑似的な心中。嘘の悲劇。私は思わず落ちるけど、しかし必ず目を覚ます。まるで死にそびれたかの様な絶望的な顔をして。そして貴方は笑う。おはよう、朝日が綺麗だ。なんて、私をころす時の顔で。そして私は泣く。もう涙は出ないけど。悲劇の終わりを告げる為に。(そして、私達は、何十回目かの会話を、また始める)
 私は貴方に惚れてなんか居なかった。唯渇望する。貴方の目を、鼻を、口を、喉を、手を、足を、声を、名前を、…、…。数え切れない全てを。そして嫉妬した。知らない貴方を。抑え切れない欲望に欲情した。貴方が震わす空気の振動が愛しかった、切なかった。貴方が生み出すものなら何でも良かった。何でも欲しかった。いつか、貴方が(何かの手違いで、もしも、)死んだ時、その腸を食べるくらいは許して貰えるんじゃないだろうか、なんて、思って、いる。
 求め、求め、求め過ぎて、どうなるかも分からなくて、遂に壊れて、幸せって何だろう、って貴方に聞いたら、寝る事、と笑われた。寝て、キスして、種出して、子孫繁栄、と笑うから、私も笑う。それがちっとも貴方の本心じゃ無い事に笑った。何故か涙が出た。悲しくなんか無かったのに。何も悲しくなんか無かったのに。長い時間笑って、声も枯れて、涙も尽きて、結局、貴方が言ってみただけの「幸せ」に流れる。キスは苦かった。ほんの少し、生臭かった。幸せじゃなかった。何にも。これっぽっちでさえも。むせ返る。えづく。そしてまた夜が明ける。おはよう、朝日が綺麗だ…。
 考え方とか躰とか雰囲気とか今までの人生とか究極には性別だとか、全部、全部違う私達は、知っている様でお互い何も知らないし(貴方は、私を知っているのかもしれないが)、世界は丸いし。
 だから、私は思う。
 何かが間違えでもしなきゃ私達は交差しない。どんなに求めても欲しがっても、泣いて切望しても、貴方が止まったままだから。たった一瞬、貴方の気紛れで交わったとしても、それは唯の甘い夢。一度限りの逢瀬。私は、また明け方を見る。朝日の美しさに泣く。貴方の惨さに泣く。涙なんてとうに尽きたのに。絞り出す。それは私の血潮だろうか。
 頼むから、この恋の最後に、何でも無いみたいな顔をして私を殺して欲しい。いつもみたいにゆっくり笑って締めて欲しい。そして私が死んだら泣かないで、静かに牢固に入って。「彼女が望んだ事でした」と呟いてくれたら良い。私で貴方の人生を潰して、それ程愛して。殺せないのなら生かして、貴方の愛で満たして。