あなたを愛したのが間違いだったわ
 馬鹿みたいに偉そうに言う
 自分は世界でいちばんかわいそう
 窓辺にお座り わがままな人



― sentimental・egoist ―



「世界はもう腐っている」
 鈍く光る吐瀉物であふれかえっている。
 そんな下界だ、そんな世界だ。
 直視するのも、思わずためらうような。
―されどこの様に蕩けきった世界で我々は生きていかねばならぬのだ。
 近い昔に、落とすようにそんな言葉を吐(つ)いた。赤くはれた瞼が血を吹いて泣き出す。けれどドロのように生きる。いつか汚く朽果てるだろう。この世界のように。けれどドロのように生きる。醜い醜態をさらけ出したまま、世界は腐っていると悪態を吐きながら。それでも息をするだろう、生き物を喰らうだろう。生きるために仕方ないのだと泣きながら友を喰らうだろう。腐りかけた果実を愛して醜く生き残る。死ぬように生きてみせる、死ぬ事なんてないように。
「私はお前にこの世界を渡したい」
 そっと隣を見つめて呟いた。深紅の瞳が女を捕らえる。女は、哀しそうにそっと頷いた。細い金色の髪がまう。薄汚れた世界の真ん中で、それは浮いていた。
 這いずり回る。世界は汚いと罵って這いずり回る。けれどいつかもとの場所に戻る、君が居る、それだけの理由で。その甘く細い金色の髪が、けしてこの色に染まらぬように。
「朽果てる前の、世界を」
 紡いだ言葉は遠い昔の現実だ、幻だ。あの時は夢だったのだと誰もが泣き寝入りをする。人を愛することしか信じられなかったあのときが腐る、堕ちる、見えなくなる。消え果た愛しさは大地に染み、じくり と腐る。そして鈍色の吐瀉物を作る。これは世界中の人々の口から出たものだ。愛が腐る、君も腐る。
「…わたしたか、った…」
 最後の吐息はただの願いだ、愚かな願望だ。
 いつか。
 私達は可愛そうなのだとお互い頭を撫で回し、傷をなめ回しながら、世界はとても愛しいと呟いたまま、綺麗な世界をこの細くて白々しいちっぽけな腕で抱きしめて、朽果てられたら。
 世界の吐瀉物に混ざる、君が見えない、私が居ない。

―おはよう、愛しい人。世界は未だに綺麗で、乱れている。

 世界を渡したかった。腐る前の世界を、君に見てほしい、見てほしかった。